製薬業界は、人々の健康と生活の質向上に不可欠な医薬品の研究、開発、製造、販売を行う業界です。新薬開発には莫大な費用と時間がかかる一方、成功すれば世界中の人々の健康に貢献できる可能性を秘めています。
製薬業界は、科学的知識と倫理観を兼ね備えた人材を求めています。 この記事では、製薬業界の就職難易度、人気の理由、主な企業、職種、平均年収、就職を有利に進める方法、そして先輩の声まで、製薬業界への就職を目指す方が知っておくべき情報を網羅的に解説します。
製薬業界とは?
製薬業界は、医薬品の研究開発、製造、販売を行う企業群で構成される産業です。日本の主要企業には武田薬品工業、アステラス製薬、第一三共などがあります。
この業界の特徴は、新薬開発に莫大な時間と費用を要することです。例えば、1つの新薬開発には9〜16年の期間と数百億円から1千億円を超える費用が必要とされます。
ビジネスモデルとしては、自社で製造した医薬品を医薬品卸売会社を通じて病院やドラッグストアに販売するのが一般的です。ただし、一部では卸を介さず直接医療機関に提供するケースもあります。
製薬業界の現状・動向
製薬業界は、現在、大きな転換期を迎えています。様々な要因が業界に影響を与えています。ここでは製薬業界の現状と動向について解説していきます。
政府の医療費抑制政策
高齢化社会による医療費の増大は、政府にとって大きな課題です。医療費を抑制するため、政府はジェネリック医薬品の使用促進などに取り組んでいます。ジェネリック医薬品は、新薬と同じ有効成分で、より安価に製造・販売できるため、医療費削減に貢献すると期待されています。
その一方で、新薬の販売を中心としてきた製薬メーカーにとっては、ジェネリック医薬品の普及は収益減に直結する可能性があります。そのため、製薬メーカーは、新たな収益源の確保や、コスト削減などの対策を迫られています。
製薬メーカーは、このような状況に対応するために、研究開発の効率化、海外市場への進出、新規事業の開拓など、様々な戦略を展開しています。
新薬開発の難易度の上昇
かつて、製薬メーカーは画期的な新薬を開発できれば、長期にわたる収益を確保できるとされていました。しかし、近年は新薬開発の難易度が上昇し、開発コストも増大しています。それに伴い、開発期間の長期化も顕著になっています。
これは、疾患のメカニズムが複雑化していること、新薬のターゲットとなる疾患が希少化していることなどが原因です。
製薬メーカーは、このような課題を克服するために、新たな技術の導入、外部機関との連携、オープンイノベーションなど、様々な取り組みを進めています。
製薬業界の再編と新規参入
製薬業界では、合併、再編、買収などが活発化しています。これは、企業規模を拡大することで、研究開発力を強化し、競争力を高めるためです。
また、味の素のように、異業種から製薬業界に参入する企業も出てきています。
製薬業界の就職難易度が高い理由
製薬業界の就職難易度が高い理由は、主に以下の2つです。
1. そもそも人気度合いが高い
製薬業界は、人々の健康に貢献できるという社会的な意義の大きさから、多くの学生に人気があります。また、比較的安定した収入や福利厚生が充実していることも、人気の理由です。
人気企業には、多くの学生が応募するため、必然的に競争率が高くなります。例えば、大手製薬会社では、数百人の採用枠に対して、数千人から数万人の応募があることも珍しくありません。そのため、選考プロセスも厳しく、筆記試験、面接、グループディスカッションなど、複数の段階を設けている企業が多いです。
近年では、新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあり、医療業界への関心が高まっています。そのため、製薬業界の人気はさらに高まっており、就職難易度は上昇傾向にあります。
2. 専門知識が求められる
特に、研究開発職やMR(医薬情報担当者)などの職種では、専門知識が求められます。そのため、これらの職種を希望する場合は、大学院で専門的な研究を行うなど、高度な知識を身につける必要があります。
製薬業界では、専門知識に加えて、コミュニケーション能力や問題解決能力なども求められます。これらの能力をアピールするためには、インターンシップやボランティア活動など、様々な経験を積むことが重要です。
製薬業界の主な企業・メーカーランキング
製薬業界の動向がわかったところで主な製薬メーカーを3社ご紹介します。製薬業界の主要企業の売上高ランキングを以下の表にまとめます。
順位 | 企業名 | 売上高 (2023年度) |
---|---|---|
1 | 武田薬品工業 | 4兆2,638億円※1 |
2 | アステラス製薬 | 1兆6,037億円※2 |
3 | 第一三共 | 1兆6,017億円※3 |
※2 業績・財務情報 | アステラス製薬
※3 財務ハイライト – 株主・投資家の皆さま – 第一三共株式会社
それでは、各企業の詳細について見ていきましょう。
武田薬品工業
日本の製薬会社の中で、武田薬品工業は圧倒的な売上高を誇っています。2023年度の売上高は4兆2,638億円と、前期比5.9%増を達成しました。これは、主力製品である炎症性腸疾患治療薬「エンタイビオ」や免疫グロブリン製剤の売上が好調だったことが要因です。
武田薬品工業は、グローバル市場での存在感も高く、海外売上高比率は89.4%に達しています。世界中の患者さんの健康に貢献するため、積極的に海外展開を進めています。
地域に関する売上情報 | 23年度(億円) |
---|---|
日本 | 4,513 |
米国 | 21,957 |
欧州およびカナダ | 9,668 |
アジア | 2,612 |
中南米 | 1,981 |
ロシア/CIS | 725 |
その他 | 1,179 |
アステラス製薬
アステラス製薬は、日本の製薬会社の中で第2位の売上高を維持しています。2023年度の売上高は1兆6,037億円でした。高い海外売上高比率(83.2%)を誇り、グローバルに事業を展開しています。
地域に関する売上情報 | 2023年度(億円) |
---|---|
日本 | 2,701 |
米国 | 6,631 |
エスタブリッシュドマーケット | 4,156 |
グレーターチャイナ | 885 |
インターナショナルマーケット | 1,591 |
その他 | 73 |
アステラス製薬は、新薬の研究開発に力を入れており、特に泌尿器領域や移植領域に強みを持っています。革新的な医薬品を開発することで、患者さんのQOL向上に貢献しています。
第一三共
第一三共は、近年、急速な成長を遂げている製薬会社です。2023年度の売上高は1兆6,017億円と、前期比25.3%増を達成しました。これは、抗がん剤「エンハーツ」や抗凝固薬「リクシアナ」などの主力製品が大きく成長したことが要因です。
第一三共は、海外売上高が1兆円を突破し、海外売上高比率も60%を超えています。特に、がん領域における成長が著しく、今後の更なる成長が期待されています。
地域に関する売上情報 | 2023年度(億円) |
---|---|
日本 | 6,000 |
北米 | 4,993 |
欧州 | 3,108 |
その他の地域 | 1,916 |
製薬業界の4つの職種
製薬業界には、多様な職種が存在します。大きく分けると、研究職、開発職、営業職(MR)、事務職の4つに分類されます。それぞれの職種は、医薬品の研究開発、製造、販売という一連の流れの中で、重要な役割を担っています。
1. 研究職
研究職は、新しい医薬品を生み出すための研究を行う職種です。基礎研究から応用研究まで、幅広い分野の研究に携わります。
研究の種類 | 内容 |
---|---|
基礎研究 | 病気の原因やメカニズムを解明するための研究 |
応用研究 | 基礎研究の成果を基に、新しい医薬品の候補物質を探索する研究 |
研究職には、高い専門知識と探究心、そして粘り強さが求められます。最新の論文を読み解き、実験や分析を繰り返しながら、新しい発見を目指します。
例えば、ある研究者は、がん細胞の増殖を抑える新しい化合物を発見するために、日々実験を繰り返しています。その中で、偶然にも、既存の薬とは異なるメカニズムでがん細胞の増殖を抑える化合物を発見しました。この化合物は、新しい抗がん剤の開発につながる可能性があり、大きな期待が寄せられています。
2. 開発職
開発職は、研究職が見つけた候補物質を、実際に医薬品として製品化するための開発を行う職種です。
開発職には、薬学や医学の専門知識に加えて、プロジェクトマネジメント能力やコミュニケーション能力が求められます。多くの関係者と協力しながら、開発計画を推進していく必要があります。
例えば、ある開発者は、新しい糖尿病治療薬の開発プロジェクトを担当しています。前臨床試験で良好な結果が得られたため、臨床試験へと進めることになりました。臨床試験では、多くの病院と協力し、患者さんに治験薬を投与して、その効果や安全性を確認していきます。
試験の種類 | 内容 |
---|---|
前臨床試験 | 動物実験などを行い、安全性や有効性を確認する試験 |
臨床試験 | ヒトを対象に行い、安全性や有効性を確認する試験 |
3. 営業職(MR)
MR(医薬情報担当者)は、医療従事者に対して、医薬品の情報提供や販売促進活動を行う職種です。医師や薬剤師に、医薬品の有効性や安全性、使用方法などを説明し、適正使用を促進します。
MRには、高いコミュニケーション能力とプレゼンテーション能力が求められます。医療従事者との信頼関係を構築し、最新の医学情報や医薬品情報を提供することで、患者さんの治療に貢献します。
例えば、あるMRは、新しい高血圧治療薬の情報を、担当地域の医師に提供しています。医師との面談では、最新の臨床試験データや、患者さんの症例に合わせた薬の使い方などを説明します。また、医師からの質問に丁寧に答えることで、信頼関係を築き、医薬品の適正使用を促進します。
4. 事務職
事務職は、製薬会社の業務を幅広くサポートする職種です。総務、人事、経理、法務、情報システムなど、様々な業務があります。
事務職には、事務処理能力やコミュニケーション能力、そして、状況に応じて柔軟に対応できる能力が求められます。それぞれの専門性を活かしながら、会社全体の業務を円滑に進めるために貢献します。
例えば、人事部の事務職は、新卒採用や中途採用の業務を担当します。応募書類の選考、面接の実施、採用後の研修など、様々な業務を行います。また、社員の労務管理や福利厚生など、社員が働きやすい環境を作るための業務にも携わります。
製薬業界の平均年収
製薬業界は、他の業界と比較して高い平均年収を誇っています。大手製薬会社では、新卒入社でも年収500万円を超えることも珍しくありません。製薬業界の平均年収は、企業規模や職種によって異なりますが、職種別に見ると以下のような傾向があります。
企業規模 | 平均年収(20〜30代時点) |
---|---|
研究職・開発職 | 400万円〜550万円 |
営業・販売(MR) | 500万円〜700万円 |
事務職 | 360万円〜450万円 |
これらの数字は、業界全体の平均値であり、個人の経験や能力、担当する職務によって大きく変動する可能性があります。
製薬業界に就職するメリット
製薬業界は、他の業界と比べて安定性が高く、収入水準も高い傾向にあります。これは、医薬品が人々の健康に欠かせないものであり、需要が安定しているためです。
1. 安定している
製薬業界は、景気の変動に左右されにくい業界です。医薬品は、人々の生活に不可欠なものであり、景気が悪化したとしても、需要が大きく減ることはありません。そのため、製薬会社は、安定した経営基盤を維持することができます。
例えば、リーマンショックなどの経済危機が発生した際にも、製薬業界は比較的安定した業績を維持していました。これは、医薬品に対する需要が、景気に左右されにくいことを示しています。
また、製薬会社は、新薬の開発に成功すれば、特許によって一定期間、独占的に販売することができます。そのため、長期的な収益が見込めることも、安定性の高さにつながっています。
2. 収入が高い
製薬業界は、平均年収が高い業界としても知られています。厚生労働省の「賃金構造基本統計調査(令和5年)」によると、製薬業界の平均年収は、全産業平均よりも約100万円高いという結果が出ています。
これは、製薬業界で働く人材には、高度な専門知識やスキルが求められるためです。特に、研究開発職やMR(医薬情報担当者)などの職種では、高い専門性が求められ、その分、収入も高くなる傾向にあります。
また、製薬会社は、福利厚生が充実していることも特徴です。従業員の健康管理やスキルアップを支援するための制度が整っており、働きやすい環境が提供されています。
製薬業界の就職を有利に進める方法
製薬業界の就職活動を有利に進めるためには、業界・企業研究、自己分析、インターンシップ、選考対策など、様々な準備が必要です。
1. 業界・企業研究を徹底する
製薬業界は、新薬開発、製造、販売など、様々な事業を行っています。それぞれの事業内容や、業界全体の動向を理解しておくことが重要です。
また、製薬会社には、大手から中小まで、様々な規模の企業があります。それぞれの企業の特色や、求める人物像を把握しておくことが、就職活動の成功につながります。
業界・企業研究には、業界誌や企業ホームページ、就職情報サイトなどが役立ちます。
2. 自己分析と自己PRの準備
製薬業界では、高い専門知識やスキルを持つ人材が求められます。そのため、自己分析を通して、自分の強みや弱みを把握し、製薬業界でどのように活躍できるのかを明確にしておく必要があります。
また、面接では、自己PRを通して、自分の強みや能力をアピールする必要があります。自己PRは、事前にしっかりと準備しておきましょう。
3. インターンシップに通う
インターンシップは、製薬会社の仕事内容や、社風を理解する上で、非常に有効な手段です。実際に、製薬会社で働く社員と交流することで、業界への理解を深めることができます。
また、インターンシップを通して、実務経験を積むこともできます。実務経験は、就職活動において、大きなアピールポイントになります。
製薬会社は、積極的にインターンシップを実施しています。興味のある企業があれば、積極的に参加してみましょう。
4. 選考対策を万全にする
製薬会社の選考方法は、企業によって異なりますが、一般的には、筆記試験、面接、グループディスカッションなどが行われます。
筆記試験では、一般常識や、薬学、医学、生物学などの専門知識が問われます。面接では、志望動機や自己PR、業界・企業への理解度などが評価されます。グループディスカッションでは、コミュニケーション能力や問題解決能力などが評価されます。
それぞれの選考方法に合わせて、しっかりと対策をしておきましょう。
製薬業界の就職活動は、決して容易ではありません。しかし、しっかりと準備をすれば、必ず道は開けます。
先輩の声
業界の動向としては厳しい状況ですが、製薬業界は人々の健康を支え、命を救う、大変やりがいを感じることのできる業界です。また、製薬会社では、薬学部の学生だけでなく、文系の学生も営業職として募集しているので、選択肢の一つとして検討しても良いでしょう。
おわりに
高齢化社会の日本において国が負担する医療費は膨大な額となり、政府は対策として、安価なジェネリック医薬品の使用を促進しています。収益性が低く、厳しい時代を送っています。
しかしながら、医療において製薬メーカーはなくてはならない存在なので、注目は集まっている現状です。今後も高齢化は続くと予想されていますので、製薬業界に就職を希望している就活生は動向をじっくり観察する必要があるでしょう。