日本の農業は、食料自給率の低迷や高齢化による担い手不足など、多くの課題を抱えています。
しかし、近年では、AIやIoTなどの最新技術を活用したスマート農業の普及や、持続可能な農業への関心の高まりなど、新たな可能性も広がっています。
本記事では、農業業界の現状と課題、そして将来性について解説するとともに、業界を牽引する大手優良企業や最先端のベンチャー企業をランキング形式で紹介します。
さらに、農業業界で働く具体的な仕事内容や、実際に農業に従事する先輩の声も紹介します。 この記事を読めば、農業業界の全体像を把握し、将来のキャリアを考える上で役立つ情報を得ることができます。
農業業界の動向とは?
農業業界は大きく分けると、
の2種類で構成されています。第一次産業全体の問題でもありますが、農業分野は生産者の高齢化と後継者問題、それに伴う耕作放棄地の増加という大きな問題に直面しています。農林水産省や地方自治体が対策を講じるほど、深刻な問題となっています。
この現状を受け、農機メーカーや農業ITメーカーは課題解決に有用な研究・開発を進めています。現在は研究開発の成果が徐々に出始めてきており、人手不足解消や作業の効率化に役立つロボット、IoT、素人でも農産物の生産者になれるIT技術などが開発されています。
また、近年は農家直送ECサイトや他産業からの参入も増加傾向にある農業業界。業界全体で最新テクノロジーの導入による生産性の向上や、新たな販売システムの構築を図る動きが活発化してくことでしょう。
農業業界の現状と課題
農業人口の減少と高齢化
日本の農業は深刻な人口減少と高齢化に直面しています。2020年の農林業センサスによると、基幹的農業従事者数は約136万人で、そのうち65歳以上が約70%を占めています。
若い世代の農業離れが進み、後継者不足が深刻化しています。この傾向は、農地の荒廃や食料自給率の低下につながる恐れがあります。
また、熟練農家の減少は、長年培われてきた技術や知識の喪失にもつながります。政府は新規就農者の支援や農業の魅力向上に取り組んでいますが、抜本的な解決には至っていません。
大規模化・法人化の進行
農業の効率化と競争力強化を目指し、経営の大規模化と法人化が進んでいます。2020年時点で、農業経営体のうち法人は約3万3千経営体で、全体の2.1%を占めています。
大規模化により、機械化や先端技術の導入が進み、生産性の向上が期待されています。また、法人化によって資金調達や人材確保が容易になるメリットがあります。
一方で、小規模農家の淘汰や地域コミュニティの変化など、課題も浮上しています。農地の集約や経営ノウハウの向上が求められる中、バランスの取れた農業構造の実現が課題となっています。
需要と供給の不一致
農産物の需要と供給のミスマッチが、農業経営の不安定さにつながっています。天候に左右されやすい農業生産と、変動する市場需要のバランスを取ることは容易ではありません。
特に、地域特産物の場合、生産地と消費地の距離が離れていることも多く、需要予測が難しくなっています。また、輸入農産物との競争も激しくなっており、国内農産物の価格競争力が問われています。
さらに、食生活の変化や人口減少による国内市場の縮小も、需給バランスに影響を与えています。これらの課題に対し、ICTを活用した需要予測や、輸出促進による新たな市場開拓などの取り組みが進められています。
農業業界の将来性
スマート農業・アグリテックの発展
スマート農業とアグリテックの発展が、日本の農業の未来を切り開く可能性を秘めています。AIやIoT、ロボット技術を活用した自動化・省力化により、労働力不足の解消や生産性向上が期待されています。
例えば、ドローンによる農薬散布や自動運転トラクター、AIによる生育診断などが実用化されつつあります。また、ビッグデータを活用した精密農業により、最適な栽培管理が可能になります。これらの技術は、若者の農業参入を促進し、農業のイメージ刷新にも貢献しています。
課題としては、導入コストの高さや技術習得の難しさがありますが、政府の支援策や産学連携の強化により、普及が進むと予想されています。
都市型農業の台頭
都市部での農業生産、いわゆる都市型農業が注目を集めています。限られた空間を有効活用する垂直農法や、ビルの屋上・室内での水耕栽培など、新しい形態の農業が広がっています。
都市型農業は、輸送コストの削減や鮮度の高い農産物の提供、食料自給率の向上などのメリットがあります。また、都市住民の農業への理解促進や、緑化による環境改善にも寄与します。さらに、レストランとの直接取引や観光農園としての活用など、新たなビジネスモデルの創出も期待されています。
一方で、高額な地代や光熱費、周辺住民との調和など、課題も存在します。これらの解決に向け、法整備や技術革新が進められています。
6次産業化の推進
農業の6次産業化は、農業の新たな可能性を広げています。生産(1次)、加工(2次)、販売・サービス(3次)を一体化することで、付加価値の創出と農業経営の多角化を図る取り組みです。
例えば、農家レストランの運営や、自社ブランドの加工品開発、農業体験ツアーの実施などが挙げられます。6次産業化により、農業者の所得向上や雇用創出、地域活性化が期待されています。また、消費者ニーズに直接応える商品開発や、農産物の有効活用による食品ロス削減にも貢献します。
課題としては、マーケティングスキルや加工技術の習得、初期投資の負担などがありますが、政府の支援策や異業種との連携により、着実に広がりを見せています。
農業業界の大手優良企業企業ランキング
農業業界は、食料生産の基盤として重要な役割を果たしています。ここでは、農業関連機器や資材を提供する大手優良企業をランキング形式で紹介します。
企業名 | 2023年度売上高(百万円) | 企業の特徴 |
---|---|---|
クボタ | 3,020,700※1 | – 農業機械分野で国内トップシェア – 建設機械やエンジンなど幅広い製品展開 – 海外売上高比率が78.7%と高い – 環境事業やパイプシステム事業など多角的な事業構造 |
ヤンマーホールディングス | 1,081,433※2 | – 農業機械、建設機械、エネルギーシステムなど幅広い分野で事業展開 – 小型ディーゼルエンジンで高いシェア – グローバルな事業展開を積極的に推進 |
住友化学 | 2,446,900※3 | – 農薬や肥料などの農業関連製品を提供 – 石油化学や医薬品など幅広い分野で事業展開 – 環境負荷低減に配慮した製品開発に注力 |
フィードワン | 313,875※4 | – 配合飼料の製造・販売が主力事業 – 畜産・水産向け配合飼料で国内トップクラスのシェア – 飼料原料の調達から製造、販売まで一貫体制 |
※2 2024年3月期決算概要について|2024年|ニュース|ヤンマー
※3 決算説明資料 2023年度決算概況|住友化学
※4 【フィード・ワン】[2060]決算発表や業務・財務情報 | 日経電子版
1. クボタ
クボタは農業機械分野で国内トップシェアを誇る企業です。農業機械だけでなく、建設機械やエンジンなど幅広い製品を展開しています。
海外売上高比率が高く、グローバルな事業展開が特徴です。環境事業やパイプシステム事業など、多角的な事業構造も強みとなっています。
近年は、スマート農業や自動運転技術の開発にも力を入れており、農業の効率化や省力化に貢献しています。また、環境に配慮した製品開発にも注力し、持続可能な農業の実現を目指しています。
2. ヤンマーホールディングス
ヤンマーホールディングスは、農業機械や建設機械、エネルギーシステムなど幅広い分野で事業を展開しています。特に小型ディーゼルエンジンでは高いシェアを持っています。
海外事業も好調で、グローバル展開を積極的に進めています。近年は、デジタル戦略の強化や新規事業の開発にも力を入れており、IoTやAIを活用したスマート農業ソリューションの提供にも注力しています。
また、環境に配慮した製品開発や再生可能エネルギー事業にも取り組んでおり、持続可能な社会の実現に向けた取り組みを進めています。
3. 住友化学
住友化学は、農薬や肥料などの農業関連製品を提供する総合化学メーカーです。農薬や肥料だけでなく、石油化学や医薬品など幅広い分野で事業を展開しています。
グローバルな研究開発体制を持ち、革新的な農業関連製品の開発に力を入れています。特に、環境負荷の低減に配慮した製品開発に注力しており、持続可能な農業の実現に貢献しています。
バイオラショナル製品(天然物由来の農薬)の開発や、デジタル技術を活用した精密農業の推進など、次世代の農業技術の開発にも積極的に取り組んでいます。
4. フィードワン
フィードワンは、配合飼料の製造・販売を中心とする企業です。畜産・水産向けの配合飼料で国内トップクラスのシェアを持っています。
飼料原料の調達から製造、販売まで一貫した体制を構築し、畜産・水産生産者向けのコンサルティングサービスも提供しています。
近年は、環境に配慮した飼料開発や、ICTを活用した飼養管理システムの提供にも力を入れています。また、食品リサイクル事業や再生可能エネルギー事業にも参入し、循環型社会の実現に向けた取り組みを進めています。
農業業界の最先端のベンチャー企業
企業名 | 主な事業内容 |
---|---|
inaho株式会社 | AIとロボット技術を活用した自動収穫ロボットの開発・提供 |
株式会社オプティム | AIやIoT、ドローン技術を活用したスマート農業ソリューションの提供 |
株式会社AGRI SMILE | 「テクノロジーによって、産地とともに農業の未来をつくる」を経営理念に掲げる農業テクノロジー企業 |
サグリ株式会社 | 衛星データと農業データを用いて、独自の技術で農学的に農業を最適化するアプリケーションの提供しているアグリテック企業 |
株式会社ナイルワークス | AIを活用したファームソリューションの提供と農業用自動飛行ドローンの製造販売を主な事業としている企業 |
inaho株式会社
inaho株式会社は、AIとロボット技術を活用した自動収穫ロボットを開発しています。特にアスパラガスの収穫に特化したロボットは、労働力不足に悩む農家にとって画期的なソリューションとなっています。
ロボットは24時間稼働が可能で、収穫適期を逃さず、効率的な収穫を実現します。また、収集したデータを分析することで、栽培方法の最適化にも貢献しています。
inaho社の技術は、日本国内だけでなく海外でも注目されており、グローバル展開も進めています。
株式会社オプティム
株式会社オプティムは、AIやIoT、ドローン技術を活用したスマート農業ソリューションを提供しています。
オプティムは、ドローンによる空中からの農薬散布や、AIによる病害虫の早期発見など、多岐にわたるサービスを展開しています。
これらのテクノロジーにより、農作業の効率化と環境負荷の低減を同時に実現しています。また、農業だけでなく、林業や漁業など、第一次産業全体のデジタル化にも取り組んでいます。
株式会社AGRI SMILE
株式会社AGRI SMILEは、「テクノロジーによって、産地とともに農業の未来をつくる」を経営理念に掲げる農業テクノロジー企業です。
2018年に設立され、東京都千代田区に本社を置いています。主な事業内容は、農産業DXサービスと脱炭素に資するバイオテクノロジーの開発・提供です。
全JAの約4分の1にあたる150以上のJAとネットワークを構築し、栽培DX事業「KAISEKI」、農産物ブランディング支援事業「産直プライム」などを展開しています。また、バイオスティミュラントの研究開発にも注力しており、持続可能な農業の実現を目指しています。
サグリ株式会社
サグリ株式会社は、2018年6月に兵庫県で創業したスタートアップ企業です。衛星データと農業データを用いて、独自の技術で農学的に農業を最適化するアプリケーションの提供しているアグリテック企業です。
主な事業として、農地管理支援ソリューション「アクタバ」「デタバ」「ニナタバ」、農業現場の営農支援ソリューション「Sagri」を提供しています。
岐阜大学発ベンチャーとして認定され、国内外で事業を展開。シンガポールとインドに現地法人を持ち、複数の国で実証と事業展開を行っています。環境問題や社会問題の課題解決を目指し、農業DXと持続可能な農業の実現に取り組んでいます。
株式会社ナイルワークス
株式会社ナイルワークスは、2015年1月に設立された農業テクノロジー企業です。東京都千代田区に本社を置き、AIを活用したファームソリューションの提供と農業用自動飛行ドローンの製造販売を主な事業としています。
「ともに挑む。農と食の未来へ。」をスローガンに掲げ、テクノロジーの力で農業や食に関する課題解決に取り組んでいます。
高い技術力と農業への深い知見を強みとし、農業現場との密接な関係を通じて、栽培支援、省力化、品質向上などのソリューションを提供しています。
農業業界で働く人の仕事内容
農業業界に属する企業には、生産企業・農機メーカー・農業ITメーカーなど多岐に渡る業種があります。そのため、携わりたい業種によって主な職種が変わってきます。ここでは、各業種に共通する重要な職種を2つ紹介しておきます。
生産
個人農家が多いですが、生産法人・企業に籍を置きながら農産物の生産に携わる形態もあります。現場での家畜・野菜・果物・お米などの生産管理のほか、効率の良い生産方法の考案・実験作業などを担ったりします。
研究・開発
農業IT・農機・飼料・農業用地といった多岐に渡る業種において、その分野で有用な技術・素材などの研究開発をすることが仕事です。研究開発が進むにつれ、今後の農業業界の課題解決を図る、需要な職種でもあります。
そのほかにも、産地開発や法人運営に必要な経理・営業などの職種があります。
おわりに
日本の農業業界は、生産者の高齢化や後継者問題、耕作放棄地の増加など深刻な問題を抱えています。しかし逆にとらえると、成長産業となり得る可能性を秘めた産業であるともいえます。そのため、既存の技術やシステム・ノウハウを活かして他産業から参入する企業も増えています。
ロボットやIoT技術などを活用し、次世代を担う若者を強く募集している業界ですので、農業業界を希望する就活生は、業界研究と企業研究をしっかりとおこない、業界に詳しくなっておきましょう。