「繊維業界ってどんなところ?」「将来性は?」「どんな仕事があるの?」 繊維業界への就職を検討しているあなたは、このような疑問を抱えていませんか?
華やかなイメージとは裏腹に、繊維業界には「やめとけ」と言われる理由や、将来性への不安など、様々な情報が錯綜しています。
この記事では、繊維業界の全体像、メーカーランキング、仕事内容、将来性について詳しく解説します。業界研究を進める中で生まれた疑問や不安を解消し、繊維業界への就職を前向きに検討できるよう、具体的な情報を提供します。
繊維業界の前提知識
繊維業界への就職を検討しているあなたは、繊維業界について具体的にどのような知識を持っていますか? 漠然としたイメージはあるかもしれませんが、具体的なビジネスモデルや業界構造については、詳しく知らない方も多いのではないでしょうか。ここでは繊維業界について詳しく解説していきます。
繊維業界とは?
繊維業界とは、衣料品やインテリア用品など、私たちの生活に欠かせない様々な製品に使われる「繊維」を扱う産業です。具体的には、以下のような商材の生産、加工、流通、販売に関わる企業が含まれます。
- 天然繊維(綿、麻、絹、羊毛など)
- 化学繊維(ポリエステル、ナイロン、アクリルなど)
繊維業界は、私たちの生活に密着しているだけでなく、自動車、航空宇宙、医療など、幅広い分野で活用されています。近年では、環境問題への関心の高まりから、リサイクル繊維や植物由来の繊維など、サステナビリティを意識した製品開発も活発に行われています。
繊維業界(商社・メーカー)のビジネスモデル
繊維業界には、大きく分けて「商社」と「メーカー」の2つのビジネスモデルがあります。それぞれの役割と特徴を理解することで、繊維業界の全体像をより深く把握することができます。
1. 商社
繊維商社は、繊維製品の輸出入や国内取引を仲介する役割を担っています。具体的には、以下のような業務を行います。
- 海外から原料や製品を輸入し、国内メーカーや小売店に販売する
- 国内メーカーの製品を海外に輸出する
- 国内メーカーと小売店の間で製品の取引を仲介する
商社は、世界中の市場動向や顧客ニーズを把握し、最適な製品を調達・販売することで、繊維業界全体の流通を支えています。
2. メーカー
繊維メーカーは、原料から繊維製品を製造する役割を担っています。具体的には、以下のような工程を経て、最終製品を作り出します。
工程名 | 説明 |
---|---|
紡績 | 原料から糸を作る |
織布/編立 | 糸から生地を作る |
染色/加工 | 生地を染色したり、機能性を付与する加工を施したりする |
縫製 | 生地から製品を縫製する |
メーカーは、素材開発や生産技術の向上を通じて、高品質で革新的な製品を生み出すことで、繊維業界の発展に貢献しています。
繊維業界の大手ランキング
戦略や研究・開発に力を入れるなど、さまざまな企業努力をして繊維業界をけん引している企業を5社ご紹介します。
以下の表に、指定された企業の売上高と事業内容をまとめました。
※2早わかり旭化成 | 個人投資家のみなさまへ | IR情報 | 旭化成株式会社
※3企業情報 | 帝人株式会社
※4業績ハイライト | 住江織物株式会社
※5財務ハイライト | 財務・業績 | 株主・投資家情報 | 東洋紡株式会社
東レ株式会社
1926年設立、国内外の関係会社を含めた総従業員数が45,000名ほど、2023年度の連結売上高が24,646億円という大企業です。国内だけでなく、海外にも事業を広く展開していることから世界的にも有名な繊維商社となります。
主な事業内容は、以下のような非常に幅広い事業展開を行っています。
- 繊維・機能化成品
- 炭素繊維複合材料
- 環境エンジニアリング
- ライフサイエンスに関する製品の製造・加工・分析・調査・研究等のサービス関連事業
海外への進出を強化していること、繊維製品にこだわらない製品開発やもの作りに力を入れて他業種との関りを深めることで、業績を伸ばしているといえるでしょう。
旭化成グループ
旭化成グループは1922年創立の総合化学メーカーであり、繊維業界においても重要な地位を占めています。従業員数は4万人以上で、そのうち約4割が海外従業員です。2023年度の売上高は27,849億円に達し、事業は「マテリアル」「住宅」「ヘルスケア」の3領域で展開されていますが、繊維事業は主にマテリアル領域に属します。
同社は高機能繊維の開発・生産に注力し、環境に配慮した製品開発も進めています。「昨日まで世界になかったものを」というスローガンのもと、イノベーションによる新たな価値創造を追求している点が特徴です。
また、グローバル展開にも積極的で、世界20か国以上で事業を展開し、海外売上比率は50.6%に達しています。繊維業界においても、高度な技術と新たな発想で環境問題への対応や新市場開拓に積極的に取り組んでいます。
帝人株式会社
1918年創立、国内外合わせて従業員数は19,000名ほど、2023年度の連結売上高は10,328億円となっています。東京都と大阪府に本社を構え、グループ会社数を見ると、国内は59社であるのに対し海外が104社であることから、海外での事業展開に力を入れている繊維商社といえるでしょう。
事業も、高機能繊維・化成品・複合成形材料、医薬・在宅医療、ITといった多岐にわたる内容をグローバルに展開しており、今後の発展が期待できます。
住江織物株式会社
住江織物株式会社は1883年創業の老舗繊維メーカーで、
- インテリア
- 自動車・車両内装
- 機能資材
を主な事業としています。2023年5月期の連結売上高は1,034億円で、前期比9.1%増と好調です。自動車・車両内装が売上高の約61%を占め、主力事業となっています。
「K(健康)K(環境)R(リサイクル)+A(アメニティ)」という開発理念のもと、環境負荷低減に積極的に取り組んでいます。
グローバル展開も活発で、北中米やアジアでの売上高が全体の約3分の1を占めています。社外取締役を含む多様な経営体制を構築し、コンプライアンス経営を重視しています。長い歴史と技術力を活かしながら、環境配慮とグローバル展開を進め、持続可能な成長を目指しています。
東洋紡
東洋紡は1914年創立の総合化学メーカーで、繊維、フィルム・機能樹脂、ヘルスケアなどの事業を展開しています。2023年3月期の連結売上高は4,142億円、従業員数は連結10,668名、単体3,063名です。高機能繊維やバイオ技術を強みとし、環境問題への対応や技術革新に注力しています。
「昨日まで世界になかったものを」というスローガンのもと、新たな価値創造を追求しています。海外展開も積極的に行っており、グローバルな競争力強化を図っています。一方で、原燃料価格の高騰や中国経済の鈍化など、外部環境の変化への対応が課題となっています。今後は、環境配慮型製品の開発や高機能繊維の応用範囲拡大が成長戦略の鍵となるでしょう。
繊維業界のやりがい
繊維業界は、私たちの生活に欠かせない「衣」を支える重要な産業です。一見地味に思えるかもしれませんが、実は多くのやりがいを感じられる仕事です。この記事では、繊維業界で働くことの魅力とやりがいについて、具体的な事例を交えながら解説します。
繊維業界で働くやりがいは、大きく2つに分けられます。
1. 身近な製品を通じて、人々の生活を豊かにできる
繊維業界で働く魅力の一つは、自分が携わった製品が、人々の生活を直接豊かにすることに繋がっている実感を得られることです。
分野 | 例 |
---|---|
ファッション | トレンドを取り入れたデザインの洋服、機能性に優れたスポーツウェアなど |
生活空間 | 吸水速乾性や保温性に優れた寝具、インテリアファブリックなど |
安全・安心 | 防災服、防護服、医療用繊維など |
2. 素材や技術の進化を通じて、社会に貢献できる
繊維業界は、常に新しい素材や技術の開発に挑戦しています。その進化は、私たちの生活をさらに豊かにするだけでなく、地球環境の保護や産業の発展にも貢献します。
分野 | 例 |
---|---|
環境 | リサイクル素材、植物由来の素材など |
医療・介護 | 人工血管、人工皮膚、介護用衣料など |
スポーツ・産業 | 高機能スポーツウェア、自動車用繊維、航空宇宙用繊維など |
繊維業界への志望動機の書き方
繊維業界への就職を目指すあなた。履歴書や面接で避けて通れないのが「志望動機」です。 繊維業界への熱い想いを効果的に伝えるためには、どのような点に注意すれば良いのでしょうか?この記事では、繊維業界への志望動機の書き方について、具体的なポイントを解説します。
繊維業界への志望動機を書く際に重要なポイントは、以下の4つです。
1. 繊維業界への熱意を具体的に示す
なぜ繊維業界に興味を持ったのか、そのきっかけや理由を具体的に説明しましょう。例えば、
- 繊維製品を通して人々の生活を豊かにしたいという想い
- 環境に配慮した素材開発や技術革新への興味
- 特定の企業の製品や企業理念への共感
などを挙げることができます。熱意自体は以下のようにエピソードを交えることで、熱意の解像度を上げて面接官に伝えることができるでしょう。
大学で環境問題について学んだことをきっかけに、サステナビリティを重視した繊維業界に興味を持ちました。貴社が取り組むリサイクル素材の開発に貢献したいと考えています。
幼い頃からファッションが好きで、洋服を通して自己表現をする楽しさを知りました。将来は、人々を笑顔にするような魅力的な繊維製品を作りたいと考えています。
2. あなたの強みや経験をアピールする
あなたが繊維業界で活躍できる能力や経験をアピールしましょう。例えば、
- コミュニケーション能力
- 問題解決能力
- チームワーク
などを挙げることができます。例としては以下のようなものが挙げられます。過去のエピソードから想定される能力をベースに、面接を受ける企業に与えられるメリットを話すようにしましょう。
海外留学経験で身につけた語学力と異文化理解力を活かし、貴社の海外事業展開に貢献したいと考えています。
大学の研究活動で培った分析力と問題解決能力を活かし、貴社の製品開発に貢献したいと考えています。
3. 将来の目標やキャリアプランを明確にする
繊維業界でどのようなキャリアを築きたいのか、将来の目標やキャリアプランを明確にしましょう。企業のビジョンや事業内容とあなたの目標が合致していることをアピールすることが重要です。
以下のような話し方で、将来のキャリアプランについて明確することができるでしょう。
グローバルに活躍できる人材を目指しており、貴社の海外拠点での勤務を希望しています。
将来的には、貴社のマーケティング部門で活躍し、消費者ニーズを捉えた製品開発に携わりたいと考えています。
4. 熱意と誠意を伝える
最後に、繊維業界への就職に対するあなたの熱意と誠意を伝えましょう。企業への感謝の気持ちや入社意欲を具体的に表現することが大切です。
例としては以下のような話し方をすることで、熱意や誠意を伝えることができるでしょう。
面接の機会をいただき、誠にありがとうございます。本日は、私の熱意を直接お伝えできることを大変嬉しく思います。
貴社の説明会に参加し、社員の方々の熱意と仕事への誇りに感銘を受けました。私も貴社の一員として、繊維業界の発展に貢献したいと考えています。
繊維業界をやめとけと言われる理由
繊維業界は、華やかなイメージとは裏腹に、いくつかの厳しい現実があります。
ここでは、繊維業界で働くことを迷っている就活生に向けて、繊維業界の「やめとけ」と言われる理由を解説します。
1. 古い業界で保守的な側面がある
繊維業界は歴史が長く、伝統的な企業が多いです。そのため、年功序列や終身雇用制度が残っている企業も少なくありません。こうした環境では、若手社員が新しいアイデアを出しても受け入れられなかったり、昇進に時間がかかったりすることがあります。
また、繊維業界は技術革新が遅れている面もあり、新しい技術やアイデアを取り入れることに消極的な企業も存在します。変化の激しい現代において、柔軟性に欠ける企業は競争力を失い、淘汰される可能性があります。
2. 繁忙期が非常に忙しい
繊維業界は、アパレル業界の繁忙期(春夏・秋冬)に合わせて、生産量が大幅に増加します。そのため、残業や休日出勤が発生することもあります。ワークライフバランスを重視する就活生にとっては、厳しい環境と言えるでしょう。
例えば、アパレルメーカーが新作を発表する時期には、繊維メーカーへの発注が集中します。納期に間に合わせるために、従業員は長時間労働を強いられることもあります。
3. 海外生産の増加や価格競争が激しい
近年、人件費の安い海外での生産が増加しており、国内の繊維メーカーは価格競争にさらされています。そのため、雇用が不安定になる可能性や、賃金が低い傾向があります。
例えば、中国や東南アジアでは、人件費が日本の1/10以下という国もあります。こうした国々からの安価な輸入品が増加することで、国内の繊維メーカーは価格を下げざるを得なくなり、収益が悪化しています。
繊維業界の仕事内容を職種別に紹介
研究・開発
繊維や素材の研究と開発を行います。また、商品の安全性や性能を見極め評価することも仕事となっています。研究・開発部門で働くには、繊維や素材の知識、研究や開発に必要な技術力を持つことが必要になります。
商品開発
新たな機能や付加価値を持った繊維製品を生み出す仕事です。また、取引先から提案された企画などを商品化する研究や開発も、仕事内容に含まれます。今後の世の中の流れとニーズを的確にキャッチする力、売れる商品を開発する企画力などを磨く必要があるでしょう。
営業
取引先の開拓や顧客への新商品売込みなど、営業の仕事内容は多岐に渡ります。営業力がある商社は逆境に負けない強い商社だと言われるほど、商社にとって重要なポストになります。
具体的には、新規開拓先への商品の売込み・顧客からの要望の把握や価格などの交渉・新商品のプレゼンテーションなどを担います。また、顧客からの要望などを研究・開発部門に的確に伝え、改善や新商品の開発の手助けをすることも重要な仕事となります。
繊維業界の動向とは?
2016年の世界の繊維最終需要量は8,800万トンとなり、1990年から約2.3倍に増加しました。また、一人当たり需要量も約1.6倍に増えています。
また繊維業界について経済産業省の資料をもとに論じると以下のように総括できるでしょう。
今後の課題
繊維業界の今後の課題としては、いかに新たな高性能繊維や素材を生み出し、業績を上げるかということです。
衣料品などに使用する繊維や素材などでは、海外の格安繊維や素材に打ち勝てていない現状の繊維業界。特に中国の繊維業界は急成長をとげ、多くのアパレル企業は中国の繊維商社とへ流れていきました。
しかし、長年の厳しい国際競争の中を生き残った日本企業におけるものづくりの地力は強く、世界で高い評価を得ています。その高い技術力を最大限に活かして需要のある新繊維や素材を開発し、減少傾向にある国内の市場規模を立て直すことも必要でしょう。
成長戦略
従来の衣料品などに使用している天然繊維や素材よりも、自動車メーカーや医療メーカーなどが使用する化学繊維の開発・流通に軸足を移し、堅調に業績を伸ばす企業が登場しています。
このように、飛行機や自動車の部品に使用する産業用の炭素繊維など、海外でも需要の高い分野において高性能な新繊維を開発することが、今後の繊維業界の発展に繋がることでしょう。
また、繊維や素材の研究や開発の技術を転用し、樹脂や化学フィルムといった繊維とは異なる製品の開発や研究を進め、窮地に追い込まれた状況を好転させた繊維メーカーもあります。繊維の技術を活かしてマーケットを広げることも、成長戦略の一つとして重要な要素となるでしょう。
先輩の声
繊維業界は、国内の取引だけでなく、海外に進出している企業が多く、グローバル思考が必要とされます。そのため、留学経験や語学力が他の就活生と差をつける強みになると思います。
また、繊維業界は新しい素材や技術の開発に力を入れているため、チャレンジ精神も大切です。
おわりに
中国など海外の格安繊維の登場で、打撃を受け低迷している繊維商社もあります。しかし、その一方で、持てる技術を活かして幅広い分野で必要とされる製品を開発し、売上高を伸ばしている企業も存在しています。
わが国の繊維業界は、繊維に機能を付与し、性能を高める技術において強みを持っており、さらなる活躍が期待できるでしょう。世界的にはまだまだ伸びると予測される繊維業界。今後の動向から目が離せません。